今回のプロジェクトを機に、自分自身の家族の食の記憶をたどり始めると、自分で想像していた以上に、とてもたくさんの【食と家族】のシーンが、味や香り、温度、空気、誰と一緒に、どんなシーンで、どんな気持ちで…五感全部を通して、まるでその場に居るかのように鮮やかによみがえることに驚きを感じています。
同時に、今までわかっていたつもりでも、心の深い所に落とし込まれていなかった、【皆の力でとても大事に育てて頂いた事実】に改めて気づくことが出来、祖父母や父母、兄弟、親戚、支えていただいていた皆さまに大きな感謝の想いで、自然と涙があふれて止まりませんでした。
私自身のたくさんの【家族の食の想い出】を、ひとつずつ、皆さまにご紹介できれば嬉しく思います。
========
Topic.1【お酢の香り】
お料理上手な祖母の味、中でも巻きずし、ばら寿司の味わいは、子供心に『上品で旨味が素晴らしい』と生意気にも確信を持っていました。
我が家は曽祖父の時代から少し手広く乾物問屋を営んでおり、3世帯同居でお商売の都合上、祖母が台所に立つことが多かったようです。
お仕事柄、良質の海苔や椎茸、昆布や鰹節など、旨味の宝庫に囲まれて育った環境は、私に大きな影響を与えてくれたようです。
私は小さい頃から、裏庭に近くひんやり涼しい台所が好きで、夕方の早い時間から煮物の香りがし始めると、ずっと台所で祖母が料理を作る姿を眺め、お手伝いをしていたことを想い出します。
何かお祝い事があるたびに、祖母がつくる巻きずし。
10合焚きの炊飯器から炊き立てのご飯を木桶に開けて、団扇であおぎ冷ましながら、すし酢を回しいれるあの香り。鼻をくすぐるキュンと来る思い出の香り。
椎茸を甘辛く、高野豆腐とかんぴょう、ニンジンは優しい甘さに煮て、ゆっくり時間をかけて冷ますことで味はしっかり具材に沁みこみ、間違いのない美味しさに仕上がります。
タマゴは少し甘めの厚焼き、きゅうりは少し塩もみして細長く切り、三つ葉をサッと茹で、香りと彩を添えます。
具材の煮汁を小皿に少し取り置き、布巾と巻き簀の上に、黒く艶やかな海苔を敷き、辺が長い方を手前に置いて、摘まむような指先に小皿の煮汁を手に付けながら、上2センチほどを残して薄く酢飯を延ばしていく。
煮汁を絞り細長く切った先程の具材を、手前から彩りよく丁寧に並べ、きゅっと手元に巻き込んで、適度に締めながらサッと巻いてゆく。巻き終わりにはまた煮汁を軽く塗ってぴたりと〆る。
小気味よいリズムをきざみながら、見事な海苔巻きが完成します。
家族が多かったので、毎回20-30本はつくりおき、台所のテーブルの上に綺麗に並べてあったことを想い出します。
幼い私も一緒に海苔巻きにチャレンジしますが、ボロボロ緩む仕上がりになってしまい、力の入れ加減で出来映えがこんなに変わるものかと感じながら、それでも毎回少しずつ上達するのが嬉しく楽しいお手伝いでした。